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講師の頭の中blog
女王のフィンガーボウル
2022/10/09

こんにちは、宮川です。
みなさん、女王のフィンガーボウルというお話をご存じでしょうか?
1837年にイギリス女王に即位したヴィクトリアという女王の逸話になります。(諸説はあるそうです)
ヴィクトリア女王が、ある貴族を招いて食事会を開きました。
その時に、手を使って食べる料理が出されました。
当然指先が汚れてしまうのですが、そういう時のために、
テーブルの上にはフィンガーボウルという水の入った容器があります。
指が汚れた際には、このフィンガーボウルの水を使って指先を洗うのが「マナー」です。
ところが、その貴族はフィンガーボウルの使い方を知らなかったため、
飲料水だと思ってその水を飲むという「マナー違反」を起こしてしまいました。
その様子を見て、もしあなたが女王の立場ならどうしますか?
見なかったことにする?
間違いを言葉で指摘する?
実際に指を洗って正しい使い方を見せる?
笑いものにする?
ヴィクトリア女王が取った行動はそのどれとも違いました。
なんと女王は、その貴族と同じように自らフィンガーボウルの水を飲んだんです。
こうして女王は来客に恥をかかせることなく、無事食事会を終えることができました。
女王の取った行動はもちろんマナー違反です。
しかし、マナーとは「他者を気遣う気持ち」を形式化したものであり、
マナーを守ること、形式を守ることが本来の目的ではありません。
そういう意味では、女王の行動は「相手を気遣う」ものであり、賞賛されるべきものとなります。
「形式を守ることが大事なのではなく、相手を気遣うことが大事だ」
ということで話を終えれば、一応一つの説話として成り立ってはいるのですが、
…うーん、なんか違和感ありません?
確かにその場では貴族に恥をかかせることもありませんでした。
しかし、もしこの貴族が別の場で同じ状況になったとき、
同様のマナー違反をしてしまう可能性がとても高くなります。
しかも「あの女王も同じようにやっていた」わけですから、余計にたちが悪くなります。
下手をすれば「あの女王め、恥をかかせやがって」なんて逆恨みをされるかもしれません。
では女王が取るべき行動としては、何が正解だったのでしょう?
その場で指摘する?
「なるほど、勉強になりました。ありがとうございます、おかげでこれから恥をかかないですみます。」
なんていうふうに丸く収まる事も考えられますが、
逆に怒らせてしまったり、嫌な気持ちにさせてしまう可能性だってずいぶんあります。
では、あとでこっそり指摘する方が良い?あるいはスルーするのがいい?
いろいろとシミュレーションをしてみても、うまくいくパターンもあれば
うまくいかない、逆効果となってしまうパターンだって十分に考えられます。
これが「自分にとって都合の良い対応」であれば話は簡単です。
スルーをして、「われ関せず」というのが、きっと正解なんでしょう、自分のことだけを考えれば。
でも、「相手のためになるのは何だろう」と考えると、これが結構難しい。
極端な話、その場は丸く収まっても長い目で見れば相手のためにならない事だってたくさんあるし、
その逆のことだって世の中にはたくさんあります。
つまり、どういうことか?
「こうしておけば全部丸く収まる正解は何か?」
なんて考えても、その時点では「正解」は分からないということなんです。
相手のことを思って取った行動が、逆に相手を怒らせてしまうことなんて誰しも経験していることでしょう。
人が違えば、考え方や価値観も異なります。
ですから、万人に通用する正解なんてありませんし、
個別の対応であっても、何が正解かなんて事前には分かりません。
相手のためにやったことが、相手の「地雷だった」なんてことも普通にあります。
でも、だからといって相手に対する気遣いをやめるというのは、それこそ本末転倒でしょう。
自分なりに相手のことを考えて、そして自分の考える方法で、相手の事を思って行動する。
その結果、逆効果になることだってあるでしょう。
そんな事があると、
「こっちが好意でやってあげたのに、なんだよその態度!」
なんて気持ちになるのも分かります。
当然の感情です。
だけどそこで冷静になって考えてみることができれば、それって
「相手を責めるのは、それこそ自分の価値観を相手に押しつけている」
ということが分かります。
そんなわけで、人間関係というのはなかなか難しいものではありますが、
それでもあえて「正解」を考えるのであれば、やはり
「相手のことを思って行動すること」が、きっと「正解」なんだと思います。
ここでいう「正解」というのは、失敗しないという意味ではなく、
「自分にできるベストな解答で勝負するしかない」ということです。
もちろんその結果、逆効果になることも時にはあると思います。
それは残念ですが仕方がありません。
でも、そういう時こそ、「失敗」した後でも全然いいので、
「なるほど、そんなふうに感じる人もいるんだ」
と、相手の価値観を尊重することができれば、「正解率」も少しずつ上がっていくことでしょう。
願わくば、相手側にも同じように考える冷静さがあるといいんですけどね。